人生で大切なことはすべてアスリートから学んだ

優れた成績(結果)を残す選手には、必ず理由(原因)がある。アスリートがプレーで表現してくれたことを、わかりやすい文章に落とし込んで発信します。

【ベラ・チャスラフスカ】信念を貫いた「五輪の名花」、どうか安らかに

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チャスラフスカさん死去=「体操の名花」、金7個―74歳(8/31 時事通信より)

 1964年東京、68年メキシコ五輪の体操女子で計7個の金メダルを獲得したベラ・チャスラフスカさんが死去したことが31日、分かった。74歳。膵臓(すいぞう)がんを患って長く闘病し、チェコ・オリンピック委員会によると、30日に出身地プラハの病院で亡くなった。
 チェコスロバキア(当時)代表として東京五輪では個人総合、平均台跳馬で金メダル。メキシコ五輪では個人総合連覇を果たし、跳馬段違い平行棒、ゆかでも優勝。その優美な演技は日本でも人気があり、「五輪の名花」「体操の名花」と称賛された。女子の体操が技の難度を競うようになる前、美しさで観客を魅了した時代を象徴する選手だった。

 

自分にとってチャスラフスカさんは、「生まれる前に活躍されていた選手」。今回、亡くなられたことを惜しむ声がとても多くて、いったいどんな人だったのだろうと思い、『ベラ・チャスラフスカ  最も美しく/後藤正治』『桜色の魂 チャスラフスカはなぜ日本人を50年も愛したのか/長田渚左』という2冊のノンフィクションを読んだ。その「知られざる激動の人生」をまとめてみる。

東京五輪 ⇒ 個人総合・跳馬平均台で金メダル!

映画女優のような美貌と優雅な演技で日本中を魅了し、「五輪の名花」「東京の恋人」と呼ばれた。ファンから贈られたお土産や手紙はトラック1台分。その中には日本刀もあった。

メキシコ五輪 ⇒ 個人総合・跳馬段違い平行棒・ゆかで金メダル!

チェコ・スロバキア民主化運動(=プラハの春)を支持する『二千語宣言』に署名。メキシコ五輪の2ヶ月前、ワルシャワ条約機構軍の侵攻があったときは、山奥の小屋に隠れ、体力が落ちないように石炭運びをしたり、木の枝を使って体操の練習をしていた。本番では、抗議の意味を込めた黒いレオタードを着用。不十分なコンディションの中、圧倒的な強さを見せた。

③ 政府から迫害を受け、21年間(26歳~46歳)も不遇の日々を送る

凱旋帰国したのもつかの間、反体制派として政府にマークされ、不当な扱いを受ける。体操連盟から除名され、一切の仕事を与えられず、生活に困窮。名前を偽って変装し、清掃員として働いた。89年の民主化(=ビロード革命)で名誉を取り戻し、再び表舞台へ。大統領補佐官やチェコ五輪委員会の会長を務めた。

④ 息子が元夫を死なせてしまう事件 ⇒ うつ病を患い、再び表舞台から姿を消す

すでに離婚していた元夫のオドロジルさんが、長男のマルティンさんと酒場で口論となり、もみ合いの末に床に倒されて不運にも命を落としてしまう。事件とは関係のないチャスラフスカさんもバッシングを受け、鬱状態に。心を閉ざし、その後14年間、誰とも会おうとしなかった。
 

⑤ がんに侵され、事実上の余命宣告を受ける

長い闘病生活を乗り越え、11年に来日した際は東日本大震災の被災地を訪れた。しかしがんに侵され、事実上の余命宣告。「ぜひ行きたい」と話していた二度目の東京五輪への参加が困難になり、「2020年は雲の上から、大好きな日本に向かって手を振りますね」と、穏やかな笑みをたたえながら話していた。


紆余曲折があった74年間の人生の中で、特筆すべきはやはり「③」の部分だと思う。五輪で7個も金メダルを獲っている ”祖国のヒロイン” がこんなにもひどい扱いを受けるなんて、日本では到底考えられないことだ。

ヘルシンキ五輪で陸上長距離3冠を達成し、”人間機関車”と呼ばれたエミール・ザトペックさんも『二千語宣言』に署名していたが、投獄・迫害・暗殺を恐れて撤回に応じ、”祖国のヒーロー” として暮らした。チャスラフスカさんも立場を変えれば優遇されたはずだが、「私は自分自身を裏切ることは、ただの一度もできなかった」

ショーシャンクの空に』という映画がある。無実の罪で刑務所に囚われた主人公(アンディ)が、ひどい扱いを受けながらも希望を捨てずに、釈放に向けて戦い続けるストーリーなのだが、どうもアンディとチャスラフスカさんの姿がかぶるのだ。

この二人の信念は、「自分に嘘をつかない」ということに尽きる。署名を撤回したり、無実の罪を認めれば、自分に嘘をつくことになる。だから、どれだけ執拗な嫌がらせを受けても、最後まで首を縦に振らなかったのだ。

かつて『ショーシャンクの空に』を見て勇気をもらった人がたくさんいたように、自分もチャスラフスカさんの2冊のノンフィクションを読んで、「人間としての強さ」に大変感銘を受けた。こんなにも立派な方が親日家であったことは、一人の日本人としてとても嬉しく思う。2020年の東京五輪、どうか空の上から見守っていてほしい。

 

ベラ・チャスラフスカさんから学んだこと

自分に嘘をついて周囲に迎合しない。最後まで自分の信念を貫く。