人生で大切なことはすべてアスリートから学んだ

優れた成績(結果)を残す選手には、必ず理由(原因)がある。アスリートがプレーで表現してくれたことを、わかりやすい文章に落とし込んで発信します。

【伊藤みき、川澄奈穂美、ジョアニー・ロシェット】「なぜこんなときに」を乗り越えて

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スポーツの神様は、時としてアスリートに残酷な試練を与えるものだ。フリースタイルスキー女子モーグル伊藤みき選手(北野建設)。2013年にW杯で初優勝し、世界選手権でも銀メダル。一躍ソチ五輪のメダル候補と騒がれた。

しかし五輪2ヶ月前、練習中に右膝を負傷。不安を抱えたままソチに入ったが、直前練習のエアの着地でバランスを崩してそのままゴールゲートに激突。右膝前十字靭帯断裂、全治8ヶ月~1年の大怪我で無念の棄権となった。コース脇にうずくまって、「誰か来てください!」と悲痛な表情で叫んでいる映像が今も忘れられない。これは本番のわずか20分前の出来事だった。

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なでしこリーグINAC神戸レオネッサ川澄奈穂美選手。2011年のドイツW杯準決勝、スウェーデン戦で2得点を上げて”シンデレラガール”となり、その後のロンドン五輪、2015年カナダW杯でもなでしこジャパンの主力選手として活躍している。

川澄選手は日本体育大学4年生のときに、初めてなでしこジャパンに練習生としての参加を打診され、そこで結果を残せば、北京五輪に出場できる可能性もあった。しかし打診されたまさにその日の練習試合で、左膝前十字靱帯断裂という全治8ヶ月の大怪我をしてしまい、せっかく訪れたチャンスをみすみす逃すこととなった。

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バンクーバー五輪フィギュアスケート女子シングル銅メダリスト、ジョアニー・ロシェット選手(カナダ)。 大会の開幕直前に、応援に来ていた最愛の母親が急死するという悲劇に見舞われた。ショックで欠場も考えたが、悲しみをこらえてショート・フリーを滑り切り、見事銅メダルに輝いた。

試合後に「マオ(浅田)にも感謝したい。果敢にトリプルアクセルに挑んだ姿を見て、私は悲しいことなんか忘れて正直、燃えたわ。ありがとう」とコメントしていたロシェット選手。翌年、浅田真央選手の母親が亡くなったときには、「気持ちは分かる」と励ましのメッセージを届けた。背中の筋肉がモリモリで、フィギュアファンからは”兄貴”と呼ばれているようなのだが、優しくて、情に厚くて、とってもカッコいいスケーターである。

「神様は乗り越えられない試練は与えない」と言うけれど、自分がもしこの三人のような境遇に置かれたら、こんな言葉はキレイ事にしか聞こえないと思う。池井戸潤さんの『空飛ぶタイヤ』という作品の中に、「押し寄せる濁流の中でただ手足をばたつかせてもがいている。自分という人間の質量に比べて、あまりにも現実が大きすぎるのだ」という表現があったが、まさにこのような状態になりそうだ。できれば忘れたい、でも決して忘れることができない強烈な経験を、すぐに「乗り越える」ことは難しい。それならば「引き連れる」しかないのではないか。

Mr.Childrenの『Tomorrow never knows』の歌詞の一節、「癒えることない痛みならいっそ引き連れて」は、「(完全に)癒えることなんてないんだから、(ずっと)引き連れていくしかないんだよ」という意味だと解釈している。乗り越えよう、忘れようとするのではなく、痛みを抱えながら生きる。襲ってきた現実があまりに辛すぎるとき、このように考えると少しはラクになれる気がする。